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Creators' Heads

2010年4月19日

クリエイティブの遺伝子 第1回:VFXスーパーバイザー 古賀信明さん 其の三

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クリエイティブの遺伝子

VFXスーパーバイザー 古賀信明 さん

第1回

VFXスーパーバイザー

古賀信明 さん

Nobuaki Koga

其の三:

多くのお客さんは、映画を見る時、VFXを見に来るのではないと思う
アナログもデジタルも両方見渡せる視点が必要だ

■ 特撮映画、VFXは、時間とお金の制約から日本では制作が難しい状況が多々あると思いますが、日本の特撮映画、VFXの未来をどう考えていますか?

実はもう特撮というくくりに、全然こだわっていないんです。やはり、お客さんが感動したり、何か考えさせられたり、のってくれたりと、そういう心の動きが表現できればいいな、という想いが第一にあります。だから、今、心が向いているのは、演出の方なんです。でも、少し前までは、僕がこの世界に入るきっかけにもなった「スター・ウォーズ」のエピソード4や、「2001年宇宙の旅」の制作行程のような経験をしてみたい、とずっと思っていました。いろいろなメイキングを読むと、「2001年宇宙の旅」の2年間に及ぶ制作行程に関わった、ほとんどの人が二度とあんな経験をしたくないと、いうふうに口々に言っています。けれど、そんな体験に、とてもあこがれますね。(笑)

■ ハリッウッドにはない日本の特撮、VFXの持ち味、見せ方、方向性について何かお考えがありますか?

まず、僕は、特撮やVFXの前に、日本の映画の全体のマーケットが、限られすぎているという問題があると思っています。つまり、日本映画が、世界に売れていれば何の問題もありません。ハリウッドが予算を掛けられるのは、マーケットが大きいから、だから予算を掛けられる。それを日本映画は、日本のマーケットの中で、汲々としているように感じます。多くのお客さんは、映画を見る時、VFXを見に来るのではないと思うんです。つまり、VFXは、お話、俳優さん、そういうものを引き立てて、その世界観を作ったり、そのエピソードに似つかわしい見せ場を作ったりすることが役目だからです。ですので、まずははじめに、映画として満足のゆく表現ができるということが重要だと思います。そのためには、なによりも日本映画が、もっともっと世界に売れなければならない。だからそこを考えに入れずに、VFXだけをああだこうだということは言えないと思います。

映画に関わっている現場のスタッフは、みんな貧乏なんですよ。なぜ貧乏かというと、映画が好きだから。映画が好きだから、多少安くてもやりますということに、映画に出資する側は寄りかかり過ぎているように感じます。もし大当たりする映画があったなら、その映画のスタッフや生産者に還元するようにならなければ、優秀な人材は、どんどん海外に流れてしまうと思うんです。僕の知り合いでも何人かいますが、日本でやれば良い物をどんどん作れる才能を持っているのに拘わらず、海外に出て働いています。ハリウッドの方が、世界中の人が見てくれる映画に関われるし、安定した収入も得られます。もちろん、場合によってはプロジェクトや、用が済めば解雇されるというアメリカならではの不安はありますけれども。そういうリスクを負ってでも、世界中の人が見てくれる作品に、自分の力が加担できるのはもの凄い魅力だと思うんです。では、日本映画に、何故それができないのでしょう。日本が詰まらない映画しか作れないわけではありません。すると、売り方に問題の一端があるように思えるんです。もしその売り方が、より大きなマーケットにうまくシフトしていくようになれば、才能のある人が日本にとどまって、更により良いものが作れるように思えます。映画に関わっている人たちは、誰でもできる仕事をしているわけではありません。だからこそ、その人たちには、それなりに報酬があってしかるべきだと思うんですよ。
僕自身はVFXの一クリエイターではなく、もう少し広い範囲で、物事に関わっていければいいなという感じに、今考えが変わりつつあります。

■ 今、力を入れてられているものは何ですか?

あるロボット映画の企画を考えています。それは、現実世界のロボットにも応用可能なCGのロボットです。今、僕は、単なる映像にとどまらず、現実の世界でも応用可能となることに、非常に興味があります。それを実際に作ってしまうと、お金とか時間、いろんなものが掛かるのですが、CGであれば、それをあたかも実際にやったようなシミュレーションができてしまうので、助かっています。

■ そのロボットは、映像とは違うものですか?

本当にロボットを作るのは、自分自身では作れませんし、たとえどこかで作ろうとしても今の技術では無理な部分があるので、今はCGで表現しています。でも近い将来、いくつかの問題がクリアすれば、現実のものになるでしょう。簡単にいうと、人間型のロボットをいかにメカニズムだけで、対、人と接しているかのような錯覚を覚えるくらい、感情移入できる(特に顔の)デザインと構造にできるかということです。というのも、今、ロボットが盛んに開発されていますが、僕にとってこういう表情なら納得できる、というロボットはどれ一つとしてないんですよ。例えば人間の皮膚そっくりに作られたロボットは、どこまでいっても気持ち悪いと思います。何故ならば、人の顔というのは、人間が最も注意を払って観察する対象物、トップ1だから、そういう顔を作りごとでやって、生きているように見せかけるには限界がある、無理だと思うんです。そこで、その表情をどう様式化して、人として認識させることができるのか考えているわけです。この様式化は、実はもう既にアニメの世界では実現しています。つまり、あの線画の、階調の少ないプロポーションの全く違う人の顔の絵に対して、人は感情移入するじゃないですか。つまり人間はそうやってパターン認識することで、ちゃんと感情移入することができることが実証されているわけですね。だから何もわざわざ大変なハードルの高いリアルな皮膚感、リアルな人間のうり二つのようなものを作らなくてもいい。逆にもっともっと表情のエッセンスを汲み出して、それをうまく視覚的に変換することに成功すれば、ロボットにもちゃんと感情移入できるようになると思うんです。今後二足歩行ロボットというのは、最終的にやはり普通の家で使われていくことになるでしょう。その時、ロボットを家族の一員として扱いたいと誰もが思うはずです。その時、ロボットの顔の表情や、しぐさが、機械としてではなく、人としてみられた方が絶対、家の中での存在価値というのが、グンとあがるわけです。そういうことが、将来に渡って、きっとできるようになるだろうと思って、それのためのヒントとして、今、こういうロボットはどうですか、という意味合いと、もちろん映画の中に登場するキャラクター、アクター(俳優)としてCGの映像上で開発しています。

■ VFXに関わるクリエイターとして、古賀さんのセールスポイントは?

他にも何人かいらっしゃいますけど、アナログからデジタルへ移行する時期に、仕事をしていた数少ない人間の一人だと思います。だから、アナログもデジタルも両方見渡せるという部分は、セールスポイントですね。つまり、デジタルしか知らない方たちは、それしか方法論を持たないのですけれど、僕ら両方判っている人間は、時にデジタルよりも、アナログの方が安いよ、というようなことが言えるわけです。日本の場合、安くあげるという大命題があって、その制約の中で、どう金を生かすことができるかという部分では、ある程度競争力はあるかと思います。

■ アナログ時代の技術や考え方は、デジタル世代に継承されているのですか?

正直判らないです。アナログの考え方を、きちんと判りやすく教えているところは、実際多くないかもしれません。もちろん、学問的なレベルで、数式を扱って光の屈折率がどうだという話はしていると思います。ただ、そういう説明は、一般の数式が理解できないような人たちが理解するのは難しいじゃないですか。実は、そんなこともあって、丁度、アナログテクニックをまとめた本を書いているんです。(後記「デジタル技術者のためのアナログ基礎講座」)例えば、レンズは、どうして光がそのように曲がるのか、収差はどうして起こるのかとか、という話ですね。レンズというのはプリズムの集合体です。そのプリズムは7色に分光して、それがフチに行けば行く程、広がっていくため、色収差が起こります。といった数式抜きの光学的なお話しや、実用的な現場での作法、3Dでトラッキングする時、撮影現場でマーカーを置くタイミングは、こういうタイミングですとか、マーカーは、こういうものを使うと素早く作業できます、といった様々なアイディアを250から300ページくらいの本にしようと書いています。

大切なのは、アナログの世界を教える人がいない、だから知らなくていい、ということにはならないことだと思います。当然それを知っておけば、現場で役に立つし、現場で何か壁にぶつかった時にそれを超えるヒントになるようなことがアナログの中に一杯含まれているわけです。そういったことの助けになればいいなという思いもあって本を書いています。多分、アナログとデジタルの移行期に現役で、今でも現役でやってる僕のような立場の人間は5人前後じゃないですかね。だから、僕らのような人は、貴重といえば貴重ですかね。もうあと10年もすればみんな現役を退くでしょうから(笑)

■ あなたにとって「クリエイティブ」とは何ですか?

作品を見てくれるお客さんの要求と、自己欲求の均衡、バランス、または折り合いです。

■ (おまけ)好きな映画は?

・2001年宇宙の旅(1968年)
・タイタニック(1997年)
・素晴らしき哉、人生!(1946年)

「2001年宇宙の旅」は、あらゆる部分でエポックメイキングな作品であること、そして、そもそもあれを形にできたということ自体が驚異です。あらゆる技術的な検証がクリアになって、映画という限られた世界の中で、あれだけのリアリティを作り出すことができた。しかもアナログだけの技術でできていることは驚嘆に値すると思います。
この2001年は、やはり本当に別格というか、僕の中で、エンジンのセルモータを回してくれた、エネルギーを持った映画でした。キューブリックは、同じような作品を2度と作らなかったというのも凄いことだと思います。

「タイタニック」も同様ですね。僕はジェームズ・キャメロンは、現代のキューブリックだと思っています。彼は実際に本物の沈没船のタイタニックを何十回ももぐって見て、そういうところからロケハンはじめていますし、あんな無茶な人はいないですよ。ま、とにかくジェームズ・キャメロンっていう人が、凄いなと。キューブリック並の敬意を持っています。

フランク・キャプラの、「素晴らしき哉、人生!」は、あれだけの長さでありながら、長さを感じさせずに、普遍的な情にうったえてくる、泣ける話ですよね。タイタニックも、最後はなかなか泣けるじゃないですか。泣ける映画というのは僕弱いすね(笑)

■ 主な制作環境

・マシン:Dell WORKSTATION PWS370
・OS:Win XP Professional+WACOM Intuos3 PTZ-631W
・CPU:Pentium4 3.4G
・GPU:ATI FireGL V3100
・HDD:150G (サーバーは6テラ)
・メモリ:3.39GHz 2GB RAM
・主なソフト:ADOBE CREATIVE SUITE3、3ds MAX2010、ZBrush3.5R3
・主なプラグイン:ROBUSKEY、tnderbox

〜 第2回 マットペインター 谷雅彦 さん 公開中 〜

「スタートレック 11」「ハリー・ポッターと炎のゴブレット」「スター・ウォーズ エピソードII/クローンの攻撃」など、ILM にてマットペイントを手掛ける谷雅彦さんに訊きました。