其の三:
派手な映画はアメリカに任せて、日本は、日本人特有の表現をもっと生かすべき
アーティストがオペレーターにならないために、もう一度絵を描いてみたい
■ アメリカで働かれている中で、日本の特撮やVFXの未来をどう思いますか?
アメリカは、制作期間と資金の大きさ、作った映画を世界に売り込むマーケティング力、そういったものは日本と違って強いです。そして、それがショービジネスと十分に成り立っていることです。日本も、もっと世界にマーケティングして映画を売っていくと、よりビジネスとしても強くなれると思います。日本人の特性として良い意味で慎重に事を進めていきますが、悪い意味だと判断が遅いことがあります。すばやく他国より先に決断し世界を開拓していくような力をもっと身につけなければならないと思います。
逆に、日本が凄いなと思う部分は、効率のよさです。確かに、日本映画の現場はアメリカに比べて規模が小さいです。しかし、その予算と時間が少ない分、効率が凄く良いと思います。だからと言ってスタッフの一人一人の映画制作に対する熱い思いに甘んじて過酷な労働条件の中で働かせるような状況があるならば、改善するべきです。
実際、アメリカの制作の場合、自分でやったことを含めて非常に無駄が多いんです。例えば僕が最初にスターウォーズで作成したジェダイテンプルのシーンのように、4週間も掛けてみっちり作っても、使用されないことがあります。カットするくらいなら最初から作らなければいいのに、と思うこともある訳です。途中からスケジュール通りに制作が進んでいなければ、一人の負担が大きくなりすぎないように、他社に仕事を委託して仕事を分散したり、人員を大幅に増やしてスケジュールを調整したりします。確かにそういった体制の中でトライ&エラーを繰り返し試行錯誤して、完成度が高いものを作り出せる余裕が生まれてくるのも確かです。でも、最終的に使われるものに、ちゃんと時間を使いたいですよね(笑)
僕は、予算が少ないのに、日本でアメリカのような、派手なアクション映画みたいなものを作ることは、避けるべきだと思うんです。それはもう、アメリカ映画に任せておけばいいことで、日本では、日本人特有の表現をもっと生かした映画を作るべきだと思うんです。日本人にしか考えられない、日本にある特色、考え方を生かした映画の方が世界に関心を持ってもらえると思います。すでにそのような方向に向かっているのかも知れませんが。VFXや特撮は、あくまでその映画の中にあるひとつの要素というだけの話で、VFXや特撮だけを切り離して、映画の将来を考えていくのはちょっと偏った話になると思います。
日本だろうが、アメリカだろうが、ストーリーはビジュアルよりも柱になる大切なものです。まずは人間を中心としたストーリーのよいものを、きちっとした世界観で見せられる映画を作る。それができれば、将来も、いい映画が出来ていくと思うし、面白い作品もどんどん生まれて来ると思います。その中で、VFXや特撮を使った作品があれば、その現場で活躍できる人達も増えて来るのではないでしょうか。

谷雅彦マットペイント作品:スターウォーズ エピソード2/クローンの攻撃(2002年)より
■ 今後目指している映像表現は?
マットペイントの延長線上で言えば、より感動的で綺麗な世界の映像を描ける機会があれば、そういったものを作ってみたいと思います。それとは別に、CGを使わずに表現できるようなテクニックをもう一度自分なりに見直してみたいと思っています。フリーハンドでどういう風に描いたらそれなりに見えてくるのか、もう一度アナログの感覚と技術を使って、デジタルと離れた絵を描いてみたいです。というのも、コンテンツを大量に作っていく、今の現状を、自分なりに考え直したい部分があるんです。今のままの方向で、これからも進んでいくのが自分に合っているのか、あらためて考えた時に、もう一度自分自身を生かせるようなアナログの感覚を取り戻したいと思っています。
新しいテクニックは、非常に便利になっています。以前レンダリングで苦戦していたものが、このレンダラーを使えば簡単にできるとか、多くのステップを踏まないと出来なかったものが、このプラグインで一発で出来るようになったとか、作業を短縮するために作られた新しい技術はとても多くて便利だし、とても助かっています。でも、このプラグインを使うと、より美しいものが簡単にできますと言った時に、やっぱりCG上で出来るものですから、限りがあると思うんです。もちろん、ILMのような会社では、新しくインハウスで作られた技術を習得していくことも必要だし、会社で作られた技術は最大限に活用していくべきだと思います。けれども、作業がどんどん短くなっていく分、凄くオペレートをしてるような感覚になっているんです。クリエイティブな仕事というよりも、ただ右から左に流していく作り方をしている感覚になってしまう。制作時間が短縮されて楽になることは良いことなんですけど、僕は、そこにクリエイティブな魅力をあまり感じることができません。
今は、デジタルが当たり前になったことで、表現できる領域も凄く増えていて、昔に比べて映画の技術レベルは当然上がっています。技術的な面で言えば、山で例えると8合目、9合目くらいまで登りついているようにも感じます。ただ、その技術を使ってどういう風に表現するかというアイディアについては、まだまだ余裕があります。そこでみんな、そのアイディアを具体的にどう形にしていくかということを、日々目指していると思うんです。でも、逆に考えれば、技術が進めば進むほど、物は大量生産されることになって、一つ一つの価値が下がっているようにも思えます。アーティストが知らず知らず、オペレーターになっていく、、、そんな不本意な方向に行ってしまう危険性を感じます。確かに、人を介すことで、その人の個性は絵の中に出てきますが、与えられたショットを短時間で右から左に流すことをあまりに多く続けていると、そこでの面白みを持ち続けることは、出来ないのではないでしょうか。そこで自己流の表現を重視したくなる訳です。
映画というものは、総合芸術と言われるように、いくつもの芸術の要素が複雑にセンス良くからみあってできています。そこには、本当に奥深いものがあって、映画を作っていく上で、非常に面白い部分だと思います。そういった奥深いところを、もう少し、いろいろな人と考えて、何か作れるような環境を作っていきたいと思っています。
最近、僕は、これは本当に映画にしなければいけないストーリーなのかと、疑問に思うことが多いんです。昔感じた映画の重さというものが、今あまり無いな、と思います。観客の刺激になり、記憶に残る、見た人の生き方を左右するような映画が、少ないように感じます。確かに、ビジネスとして、お金のために作っている映画や、お客さんが入ればそれでいいという考え方も、あると思います。ただ、そこにどう関わっていくかということについては、自分の中の課題としてあって、それを見つめ直すためにも、もう一度デジタルでないアナログ的な表現方法というものも、自分の中に確立していきたいと思っています。
■ あなたにとってクリエイティブとは何ですか?
一言でいうなら、「修行」です。
この仕事は、プレッシャーが大きな仕事が多く、作った物が良い評価を得るだろうかという不安が常にあります。そして、基本的に一人の作業時間が多い仕事です。この、とても孤独な作業の中で、周りの環境に左右されず、自分が立てた計画を順序よくこなして、しかも期限内に仕上げなければなりません。万一、壁にぶつかった時、それを避けようとしたり、解決方法をなかなか見つけられない状況の中でどう自分自身をコントロールして、モチベーションを持ち続けられるか、それが、物を作っていく結果に現れてしまいます。一つの物を作り始めた時に、長期間100%のコンディションの良い状態で集中して、最後までやり続けることは簡単ではありません。だから精神的なトレーニングが凄く必要になります。
前回出来たから今回出来るかというと、そんなことはありません。いかに体力を維持しつつ、モチベーションをキープして、無心になって打ち込んで物が作れるか。将にクリエイティブな仕事は、自分を高めていく修行のようなものだと思います。
やはり見る人が多い分、いい仕事をやり続けたいですね。良い作品ができた時は最高の充実感と開放感があります。映画はそういった意味でも飽きることがなく、面白いからこの仕事を続けていると思います。だから、できる限り自分の目指すものにこだわっていきたいと思っています。
谷雅彦マットペイント作品:インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国(2008年)より
■ (おまけ)好きな映画は?
・イレイザーヘッド(1977年)
・ブレードランナー(1982年)
・沈黙(1962年)
「イレイザーヘッド」は、真っ向から映像美で勝負している、映画本来の作品だと思います。まず台詞はほとんどないのに、映画としてのメッセージや、見せたいものが、凄く伝わってきます。見る人によっては、生理的な嫌悪感を感じると思いますが、そうして観客に気持ち悪いとか、面白いとか思ってもらうことが、映画として成功していると思うんです。映画ならではの気持ち悪さは、小説や他のものでは表現出来ないと思います。しかもモノクロなので、自分が知っている色を当てはめてみたりと、見る側の創造力をもの凄く掻き立ててくれます。
やはり、映画は映像で見せるものだと思います。昨今、そういった映画はとても少なくて、台詞を利用してストーリーを語ったり、ダイレクトな表現を見てそのままの印象を受ける映画ばかりに感じます。映画を見せるなら、やはりもっと映像で見せて欲しいし、そんな映画をいつか自分でも作ってみたいと思っています。
「ブレードランナー」は、なによりもセンスのよさを感じます。レイアウト、画面構成が、もの凄く上手いですね。照明の中でスモークをたいて空間を引き出すチンダル現象の効果も凄く生きていますし、空間や時間の間の取り方がとても上手くて凄いと思います。リドリー・スコット監督のセンスの良さが特に秀でている作品だと思います。またこの作品もほとんど無駄な説明の台詞は無く、ストーリーとテーマが凄く良いです。映像美で見せているこれも教科書的な映画の一つだと思います。
ベルイマン監督の映画は人の描き方が好きでよく見るのですが、中でも「神の沈黙」三部作の最後の作品の「沈黙」はとても好きな作品です。持病を持つ姉、そして妹とその妹の息子との話です。彼らが汽車に乗って途中下車したところが全く言葉が通じない異国なんです。妹は、姉と喧嘩をしていて、言葉は通じても、意思が通じない。息子は、自分の世界にこもっている。出て来る登場人物は、互いに精神的なつながりがもてないでいる中で、それぞれが孤独にいる。将にタイトル通り、沈黙なんです。その中で息子だけが、その世界を客観視して、うまく馴染んでいきそうな気配があります。ありふれた人間の描写、感情を、外示的表現と共示的表現を混ぜたベルイマン監督独特の映像で表現しています。孤独な環境の中に登場人物を入れることで、人間の偏見や、自我、欲望が、凄く共感できて、喜怒哀楽だけでない人間の微妙な姿を描くのが非常にうまいと思いました。うまいなんて偉そうですね、非常に勉強になります(笑)
■ 主な制作環境
2台のマシーンと2台のSGIモニターを使用
PC側で主にペイント作業をし、Linux 側で3Dソフトを使用
〜 第3回 CG撮影 ディレクター 尾崎隆晴 さん 公開中 〜
「宇宙ショーへようこそ」「ソ・ラ・ノ・ヲ・ト」撮影監督、「ネクロドラゴン」監督・CG など、A- 1 Pictures の CG撮影 ディレクター 尾崎隆晴さんに訊きました。ご期待ください。






